私山宮隆は1994年から1999年にかけて大学に在籍しつつ彫刻作品を 作って参りました。発表したもののきちんとWeb上に公開していない作品が 相当数ありますので、少しずつここにまとめます。
1998年 木、鉄、ロープ
木の歯車を応用した計算機。一桁の足し算が出来る
1998年 木、鉄、磁石、銅線、電球、パフォーマンス
パフォーマがオブジェを押して歩くと、そのエネルギーが歯車とコイルによって 電気エネルギーに変換され、頭上の小さな電球が点灯する。 日常的にあまり深く考えること無しに利用している電力について、 直感的に理解する試みである。
1998年 以下当時の展示パネルより
今回発表する健康機械は、未来の理想的なマン・マシン・インターフェース(機械と人間との接点)を追求する過程で、独創的な実験と直感的な科学に基づき誕生した一連の機械群である。マン・マシン・インターフェースの研究においては、1970年代のゼロックス・パロアルト研究所やマサチューセッツ工科大学のメディアラボ等が特に重要な役割を果たしてきたが、人間工学に基づく定量的な研究の限界が表面化しつつある近年の状況を受け、直接の成果はまだ期待できないものの、その精神的打開策として健康機械は注目すべきものである。
この背筋連打健康機械は、今回発表する健康機械の中で最も初期に開発された。もしあなたに背中をマッサージをしてくれる人がいなくても、健康機械は人間に成り代わり、正確なリズムであなたの背筋を刺激し続ける事が出来る。この巨大な人力按摩器は身長170cmの制作者の体格を基に設計されており、多くの場合、使用者は機械に合わせて姿勢を変化し、クッションの当たる位置と強さを自ら調整させなければならない。
この正確さと不器用さが、すべての健康機械を特徴づけるものであり、我々が自尊心を保ちつつ機械と接触する為にある意味重要な役割を果たすとされている。
1998年 以下当時の展示パネルより
ヨーヨーの歴史は古く、一説によると、フィリピンで狩猟に使われていた武器がルーツとされている。しかし確実な根拠があるわけではなく、実際はギリシャか中国の発祥ではないかとも言われている。ヨーヨーの使われ方としては、子供の遊びや神への奉げ物、リラックスの道具として等があり、特に1815年のワーテルローの戦いにおいては、ナポレオン部隊の戦績に大きな精神的貢献を与えた。
健康ヨーヨーは近代の健康ブームと共に登場し、数多くのモデルが存在する。今回紹介する280mmスパイラルモデルは、お年寄りからお子様まで幅広く使用できる標準的な健康ヨーヨーであり、腕力増進、バランス感覚の鍛練、右脳の活性化等に効果が認められている。片手で使用するサイドハンド・トリックのほか、2つの健康ヨーヨーを両手を同時に上下させるバタフライ・トリックや、互い違いに上下させるボンダンシング・トリックなど、各人のスキルに応じたトリック(技)により、より効果が期待できる。
なお、最近健康ヨーヨーのスパイラル模様を長時間見続けた後、ごく珠に痙攣等の発作が発生するとの報告があり、都道府県によってはスパイラルモデルを規制する動きもある。しかし一方では、この種の痙攣がバリの伝統的な祭事に見られるトランス状態の一種で、むしろ健康には良いとの学説もあり、表現の自由、異常と正常に関わる問題として議論が待たれる。
1998年 以下当時の展示パネルより
脱毛は人類において普遍的で切実な悩みである。その原因には男性ホルモンの影響や、不規則な生活スタイルによる頭皮への血行不全等が考えられるが、その完全な治療法はいまだ確立していない。しかし、この独身育毛健康機械は、その解決への重要な糸口となるだろう。
画家マルセル・デュシャンは、今世紀初頭の美術界において決定的な影響を与えた人物の一人である。独身育毛健康機械は、彼の遺した重要な作品「花嫁は彼女の独身者たちによって裸にされて、までも」(1915-23)の最新の解釈に基づき制作された。この奇妙な作品には、当時後退しつつある自らの側頭部に思い悩んだデュシャンの考案した、育毛機械の設計図という隠れた意図が込められていたのだ。
独身育毛健康機械の原理をデュシャンの言に倣って解説する。まず、「独身者は自らそのチョコレートを曵く」事によって動力が機械に伝達される。そして、「往復台とチェーンで結ばれたベネディクティン酒の瓶の重りも、上昇・下降を永遠に反復しながら希望と絶望を行き来する。」事により、回転運動がロープの往復運動に変換される。「花嫁の性腺の分泌物によってそして裸体化の電気花火によって」機械はギシギシと特徴的なノイズを発生し、「通気ピストン」「重力の軽業師」を経てブラシに伝わり、頭髪を心地よくマッサージする。そして「眼科医の表を通り抜ける間にめまいをおこす。」のである。
1998年 以下当時の展示パネルより
斬頭台ギロチンは、18世紀フランスの医師ジョセフ・イニヤース・ギヨタン博士によって提案され、楽器発明家トビアス・シュミットによって制作された。
我々が現在抱くギロチンのイメージ ―残酷で、非人道的な殺人機械― とは裏腹に、本来ギロチンとは、自由、平等、博愛というフランス革命の精神の元に生み出された、近代的な処刑装置である。それまでの処刑制度には身分差別が存在しており、貴族には斬首、平民には絞首が用いられていた。ギロチンの開発の背景には、それらの身分差別と、瞬時に処刑を完了させる事によって受刑者の肉体的苦痛を排除する目的があった。
当時のフランス市民はこの公開ギロチン・ショーに熱狂した。婦人達はギロチンのブローチやイヤリングで身を飾り、少年達にギロチンの玩具を買い与えた。ギロチンはただ処刑の道具であるだけでなく、信仰の対象であり、生け贄の首を神にささげる祭壇であった。そして、同時に後のナチスのガス室へと続く科学的大量殺人への布石となったのだ。
ギロチン式健康機械によって、我々は処刑人と受刑者の気分を同時に体験する事が出来る。ベッドに横たわり穴に首を突っ込み、後はロープを引くだけである。頭上に上げられた鉄板は最上部でロックが外れ、その瞬間。我々は自らの健康信仰を神に捧げる祈りを唱えるであろう。
1998年 以下当時の展示パネルより
かつて、チャールズ・チャップリンは1936年の映画、「モダンタイムズ」の中で、巨大な機械に巻き込まれ、歯車の間で労働者が右往左往するシーンを喜劇的に描き出した。当時の歯車とは、成長を続ける近代機械社会のいわばシンボルであり、今や労働者が機械のテンポに合わせざるをを得ない不条理さをチャップリンは痛烈に批判したのだ。
それから半世紀を経た現代、歯車のシンボル性はシリコン・チップに取って代わられた。我々の周囲から歯車やカムなどの機械部品はすっかり姿を消し、ある物は電子製品へと姿を変え、ある物はプラスティックの清潔な皮膚をまとい我々の進入を拒むのだ。電子化された機械の意志は光速で我々を管理するが、監獄の中からは決してその視線を伺う事は出来ない。もはや我々はチャップリンのように、歯車に挟まり機械を嘲笑う事は出来ないのだろうか?
どこへも続かないレールの上で、クッションに覆われたあの懐かしい歯車に挟まりつつ、このチャップリン式健康機械では背骨の周囲のつぼを刺激する事が出来る。姿勢を変えて足の裏を刺激するなど、好みに合わせて様々な姿勢をとる事が望ましい。
1998年 以下当時の展示パネルより
『一粒の砂に世界を見、一輪の野の花に天を見る。汝の掌に無限を捉え、一時の中に永遠を見よ。』
ブレイクがこう謳うように、古来から多くの神秘思想が宇宙的スケールと身体的な小さなスケールとの間に特別な相関性を見出してきた。特に、東洋においては医療と結びついた経絡の考え方が、現在でも建築や都市計画までに影響を及ぼしている。
一本指健康機械は身体の中でも、特にデビット・リンチをして身体最高の快楽と言わしめた、指先のマッサージに焦点を当てた健康機械である。手指は人体に対する比ではそれほど大きな部位では無い。しかし東洋医学では大変重要な位置を占めており、人体に六臓六腑あわせて12本存在するとされている経絡のうち半分の始点が指先に存在している為、この部位への刺激は非常に効果的なのだ。また、日常的に刺激しつづける事により、手相が変化し、運命を改善させる効果もあるという。
一本指健康機械の効能としては、以下のものが重要である。
しゃっくり・・・薬指第二関節の中央にある「肝穴」に刺激を与える事により、1時間続いたしゃっくりもたちどころに直る。
五感を鋭くする・・・各指のつめの生え際は、経絡の出発点であり、全身の感覚がみるみるうちに敏感になる。
二日酔い・・・小指第一関節の「腎穴」を刺激する事により、アセトアルデヒドの分解を促進し、辛い後悔から開放される。
なお、一本指健康機械は、入浴直後、運動直後、飲酒直後、39℃近い高熱のある時には使用してはならない。
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