REVIEW


HOME WORKS SCHEDULE REVIEW LINK PROFILE

■このページは山宮 隆が、見たり聞いたりしたいろんな事を好き勝手に書くコーナーです

[ 1997 / 06 / 02 ]

■藤本由紀夫トーク「キルヒャーの音の世界」 1997 / 05 / 31 @SEMINAIRE

大阪在住の代表的なサウンド・アーティスト、藤本由紀夫が、彼のほとんどの作品の元ネタ、アタナシウス・キルヒャーの仕事について語るレクチャーの2回目。

17世紀バロックの怪人、イエズス会士キルヒャーの多彩な仕事の内、今回は特に彼の音楽および音響理論についての話題が中心であった。水力によ自動オルガン。数列の順列並べ替による作曲機械。螺旋型を基調とする独特の形態を持つ伝声官の考案など、キルヒャーの仕事には奇妙な物が多いが、実はどれも現代の情報科学に先駆ける物であるという。

キルヒャーは、ルルスの結合術の影響も受けており、中でも圧巻はテトラグラマトン(聖四文字・キリスト教の神Yahwehを表す言ってはいけない言葉)を使った組み合わせの実験。17世紀と言う時代の精神があったとはいえ、研究の為には不敬虔とみなされかねない行為をも辞さなかった。

藤本氏が特に注目するのは、平行に並べられた壁面を使ったエコーや鳴龍の研究、日本では比較的知られたものであったとはいえ、当時のヨーロッパ人によって言及された例はほかには無いという。

また、デュシャンの遺作と、キルヒャーの「カメラ・オブスキュラ」、「大ガラス」と自動オルガンとの類似も見逃せない、また、マラルメのメモにも、キルヒャーの研究した9の組み合わせを表す「362880」の文字が残されている。これらの例は、作家が暗にキルヒャーの仕事を念頭に置いていたかもしれないことを暗示している。17世紀マニエリズムの文化は通常、時代のあだ花としてしか捉えられていないが、実はこれからのアートにとって必要な物であり、再評価されるべきだと説く。

藤本氏のキルヒャー熱は十年来にも渡っているらしく、大量の資料を携え、その語り口はさすがに確信と愛に満ち溢れていた。

[ 1997 / 05 / 30 ]

■ミミジカン 1997 / 05 / 27 @難波BEAS

多分全員大阪芸大出身の6人のパフォーマーによる、何とも形容しがたいライヴ。

全員がピアニカを一斉に使って、ライヒを思わせるミニマルな音色を聞かせたかと思うと、会場全体を駆け巡り、音の指向性を活用した文字通り音のキャッチボールを繰り広げる。

そして、一人のリーダーの指示の元、残りのメンバーが、あたかも自分が壊れたレコードになったかのように、機械的に声を発したり、相互にある決められたルールに従い、声とおもちゃの楽器、身体そのものを使って、会場を興奮とお笑いの世界に誘い込む。

まるでスポーツのようなその動きは、人間が根源的に持つ、リズムや身体運動に対する喜びを理屈抜きで見せ付けるものと同時に、情報化社会のもつ存在の断片化に対する、乾いたユーモアに満ちた作品であった。

特にホーミーのパロディー(みんな気付いたかな?)が、よかった。


YAMAMIYA Takasi